先日感想記事を書いた映画『ガタカ』が好きすぎるあまり、脚本にまで手を出してしまいました。
脚本から気になったシーンのピックアップ記事です。ネタバレするしかない記事ですので映画を未見の方はご注意ください。
先日書いた映画の感想記事はこちら。↓
映画『ガタカ』の脚本まとめです。
気になった場面を拾い読みする形式で,自分用の備忘録もかねてまとめてみることにしました。翻訳はなるべく正確を期すようにしましたが、私見による解釈も入っています。気楽に読んでいただけると嬉しいです。
脚本データはこちらを参考にしました。なお,翻訳は内容をかいつまむだけにしています。
ヴィンセントとユージーンの日常
冒頭、映画でもおなじみジェローム(ことヴィンセント)が焼却炉のなかで身体を丹念に磨いている場面。その直後の様子から。
ユージーンが隣の部屋で寝落ちしていたらしい。映画の方ではそうでもなかったですが、脚本ではかなり早い段階からユージーンが登場していたことを考えると、アンドリュー・ニコルはヴィンセントとユージーンの関係を中心に据えて描きたかったのではという気がしてきます。
INT. EUGENE'S CONDOMINIUM. EARLY MORNING. (室内,ユージーンのアパート,早朝)
ジェロームは焼却炉のある部屋から、より広く、瀟洒なロフトスタイルの部屋に出る。そこには工場の生産ラインのような奇妙な設備がたくさん。
長い作業机にはプラスチックバッグ他が整然と並べられている。道具類も。
ジェロームは机に突っ伏している人物に近づく。ユージーン。手にはウォッカのボトル。酔いつぶれてしまったらしい。ジェロームは彼の手からボトルを取る。ジェロームとユージーンの顔が似ている。
ジェロームはユージーンの椅子を、驚くほど簡単に机から引き離す。彼が座っていたのは車椅子。
ジェロームはユージーンをベッドルームに運んでいく。少し苦労して自分より背の高い相手をベッドに乗せる。酩酊しているユージーン、ぼんやりしながら麻痺した脚を動かそうと少し協力。
ユージーンにブランケットをかけてあげると、ジェロームは浴室へむかう。トイレ横に備え付けられた冷凍庫から、黄色や赤色の液体が入った袋を取り出す。
手書きの買い物リストを発見。「トリュフ、タバコ、ウォッカ」。ジェロームは静かに微笑みメモを取る。
支度を終えて仕事に向かうジェローム。
冒頭はヴィンセントとユージーンの日常の様子。日常的にユージーンの世話をしてあげているヴィンセント。ユージーンはトリュフが好物。しかし片時も酒を手放さない様子。
ガタカでの日常
早朝に家をあとにし、ガタカへ出社するヴィンセントことジェローム。午前は自席で仕事に励む。それから映画でもおなじみの検尿シーンへ。ラマー(検尿技師)と会話。
INT. GATTACA AEROSPACE CORPORATION - TESTING LABORATORY. DAY. (室内,ガタカ航空宇宙コーポ,検査室,昼)
ラマーの目の前に立ち、検尿カップを満たすジェローム。水流は隠し持っているパウチから。
ラマー(感嘆):ジェローム…恥ずかしがるな。命令だからな。素晴らしいものを持っているな。前にも言ったかな?
ジェローム(無表情):ここで毎回言われるだけですよ。
ラマー、容器を受け取り検査にかける。
ラマー:人の持ち物はたくさん見てきたから言えることだが。経験上、君のものは完璧だね。私の両親にもそんなものを注文してもらいたかったよ。
尿検査の結果、画面にVALIDの文字。薬物反応もなし。
ラマー(ジェロームをドアまで送る):すべて計画どおりにいけば、これでしばらく君には会えなくなるだろうね。あと1週間か。楽しみで仕方がないだろ?
ジェローム:週末には教えますよ。
ジェローム、立ち去る。
隠し持ったパウチからどうやって検査技師の目の前で自然な排尿が可能なのか気になりませんか……たぶんなにか外科的な処理が必要ではないかと思います…。自前の管とは別にチューブのようなものを搭載するとか。そのおかげで見た目には「素晴らしい持ち物」になってるのではないかと,この会話の意図はそんなところにあるのではと想像しています。
映画では明らかにされませんでしたが、脚本ではジェロームの勤務先は〈GATTACA AEROSPACE CORPORATION(ガタカ航空宇宙コーポレーション)〉という名称になっています。
ガタカが私企業なのか政府系機関なのかちょっと気になります。映画公開当時の宇宙開発水準から考えると政府系機関の想定なのかもしれません。(2021年の現在は私企業による宇宙開発も始まっているようですが)。
検索してみると米国には1960年に設立された「The Aerospace Corporation」という宇宙開発関係の団体があるようで、ここがひょっとしたらモデルなのかもしれません。連邦政府出資による非営利法人だそうです。
The Aerospace Corporation - Wikipedia
INT. GATTACA - RESTROOM. DAY.(室内,ガタカ,洗面所,昼)
ジェロームは洗面所へ入り、個室を見つめる。20つのうち3つが使用中。洗面台の鏡の前で、特に理由なくネクタイを緩めたりして時間をつぶす。
個室から用を足し終わった同僚が出てきて、ジェロームと会釈。同僚が出て行ったのを見届け、さっきまで使われていた個室へ入る。
ジェローム、便器の裏に隠したステンレス容器を手探りで取り出す。中身はコンタクトレンズ。すぐさま交換するジェローム。個室を出て、鏡の前でコンタクトがうまくはまっているかチェック。
INT. GATTACA - CORRIDOR. DAY.(室内,ガタカ,廊下,昼)
ジェローム(モノローグ):ありふれた話だ。主席ナビゲーターのジェローム・モローが、小惑星帯外縁の951ガスプラへの1年間の有人ミッションに旅立つまであと数日。それ自体に変わったところはない。昨年は千人以上の市民がさまざまな宇宙ミッションに参加している。それに、ジェロームが選ばれることは事実上、生まれたときから決まっていた。彼は、そうした困難を乗り越えられるよう、優れた遺伝子を生まれながらにして持ち、肉体的にも知能的にもあらゆる祝福を受けていたのだ。
ジェロームは空を見つめる。
ジェローム(モノローグ):そう、ジェローム・モローの実績について驚くべき点はないのだ。僕がジェローム・モローではない点を除けばだが。
ヴィンセントの出生
つぎの場面は、ヴィンセント出生の経緯について。
星空のもと、父母のアントニオとマリアが車(リヴィエラ)の中にいる。
僕はリヴィエラで生を受けた。フランスのリヴィエラではなく、デトロイト版のリヴィエラだ。
かつて愛により授かった子供は幸せになるなんて言われていたけど、今ではもう誰もそんなことを言わなくなった。
次は、母マリアが妊娠中絶を試みる場面。看護師によると費用は政府負担。処置の直前になり、マリアは続行を断固として拒否する。看護師と口論。お腹の中の子が「世界に必要とされていない(The world doesn't want one like that one.)」と言われ、「そんなのどうなるかわからないでしょ」とやり返す。「子供に恨まれますよ」と看護師。
(この場面によると、すべての自然妊娠は「過ち」とみなされ、政府負担によって妊娠中絶が行われるのが社会で一般的になっている様子がうかがえる。ひどい。)
やがて、ヴィンセントが自然出産により誕生する。
INT. DELIVERY ROOM. DAY.(室内,分娩室,昼)
互いの手を握りしめるマリアとアントニオ。ふたりの手のあいだにはロザリオ。
ジェローム(モノローグ):これは旧世代のものだ。運命を――地元の遺伝子専門医(local geneticist)ではなく――神の手に委ねるように神父が人を説得できた時代の遺物だ。
全身汗だくのマリア。分娩を終える。
看護師、まだへその緒がついている新生児を即座に取りあげる。一滴の血が分析器にかけられる。
赤ん坊がマリアの腕に置かれるやいなや、大量の分析結果がつぎからつぎにモニターに表示される。全体をとおして心拍に関する警告(pulsing warning signals)の表示。
看護師ふたりが互いを見つめる。アントニオはそれを見て嫌な予感。
アントニオ:何か問題が?
ジェローム(モノローグ):もちろん、僕にはなんの問題もなかった。少し昔であれば僕はどう見ても健康体のごく普通の赤ん坊だった。手の指が10本、足の指が10本。昔はそれだけあれば十分だったのだ。しかしいまや心配の種は見た目の健康だけではないのだ。
アントニオはモニターに表示される赤ん坊のデータを見る。画面には次の表示。神経症 - 確率60%、躁鬱 - 42%、肥満 - 66%、注意欠陥障害 - 89%。
ジェローム(モノローグ):目の前に僕の運命が広がっていた。僕のあらゆる欠点、つまり現代医学でさえ治療できない病気の罹患率だ。生まれてから数分で、僕の死因とその日付がすでに明らかになっていた。
アントニオはモニターの最終項目を見る。心臓病 - 99%、早世の可能性、想定寿命33歳。
看護師:赤ちゃんの名前は?(出生届を記入しながら)
マリア:アントニオにしようって……
アントニオ:(話を遮る)いや、ヴィンセント・アントニオだ。
出生届に名前が記入される。
ヴィンセントは2歳。母の愛を一身に受けるが、周囲からは「慢性的に病気を抱えている」とみなされる。自身も(幼いころから)そう思うようになる。膝をすりむいたり鼻水を出すだけで、生命の危機の扱い。
両親、二人目の子供は神父からではなく地元の遺伝子専門医の祝福を受けることにする。
弟の出生
次の子供を「普通の方法」でつくるため、両親はお金を貯める。父アントニオは車を売りに出す。
ジェローム(モノローグ):父は愛車をいい値段で売ることができた。あの車で起こした事故が唯一あるとすればそれは僕だからだ。
両親は遺伝子専門医と相談して二人目の子供についてあれこれオーダー。左利きは除外、「その子が将来子供をもてるように」との望みを反映してもらう。
遺伝子専門医から追加料金で音楽的才能または数学能力の向上はいかがと提案されるが、金額が高すぎ断念。(この世界の遺伝子専門医、ぼろ儲けの商売だ……)
INT. GENETIC COUNSELLING OFFICE. DAY.(室内,遺伝子専門医の診察室,昼)
(抜粋)
アントニオ:追加料金はいくらですか?
遺伝子専門医:5000(ドル)ほど。
アントニオ(がっかり):すみません。うちではとても払えません。
遺伝子専門医:ご心配なく。お腹に向かって歌を歌ってあげればいいんですよ。一番成功率の高い初期胚(pre-embryo)を明日の午後に着床させましょう。
マリアはスクリーンに映る4つの塊(受精卵) を見つめる。
マリア:他のはどうなるのですか?
遺伝子専門医:それらは赤ちゃんではないのですよ、マリアさん。ただの「人間の可能性」にすぎません。 砂粒以下のちっぽけさです。
「歌を歌えばいいんですよ」って適当なこと言いすぎなこの世界の遺伝子専門医。近未来ディストピアの詐欺師は医師に扮しているのかもしれない…
ヴィンセントと弟アントン
かくして、両親の望みどおり弟が誕生する。名前はアントン。 弟が父親の名前を継ぐ。
13歳にして、2歳年下の弟に身長を追い越されるヴィンセント。 身長を除けば、ヴィンセントとアントンには兄弟らしい似た雰囲気。それから二人が海で泳ぐシーン。
アントンは割れた貝殻でわざと親指を切り、ヴィンセントにもそれをやらせる。
EXT. BEACH. DAY.(外,ビーチ,昼)
ジェローム(モノローグ):二人が血を分けた兄弟を演じるようになる頃には、自分の静脈にはまったく別のものが流れているのを理解するようになっていた。
貝殻で切って流血させた指を重ねる二人。血を合わせる。
ジェローム(モノローグ):そして、自分がなにかを成し遂げようとするときにはこんな一滴どころじゃない量(の血液)が必要になることも。
この場面は将来ヴィンセントがユージーンから血液をもらう場面の予告ですね。競争の前に血を合わせるのは、ふたりの能力を平等とみせかけるため?のおまじないでしょうか。
「チキンゲーム」のシーン。負けるのはいつもヴィンセントだった。
INT. SCHOOL - CLASSROOM. DAY.(室内,学校の教室,昼)
物理の授業中。めがねをかけた13歳のヴィンセントは当てられようと勢いよく手を挙げるが、教師は彼を指名しない。彼はやがて敗北感とともに腕をおろすしかない。
ジェローム(モノローグ):僕が学校にいるあいだ、僕の遺伝情報はどこまでも後をついてきた。学習障害があると聞かされ続けた者は、往々にして誰も失望させることがない。
EXT. STREET. NIGHT.(外,通り,夜)
太陽系を模したボール遊びをするヴィンセントとアントン。
アントン:あそこには何人の宇宙飛行士がいるんだろう?
(ヴィンセントは無視。)
アントン:「僕」ならいつかなれるに決まってる。
(ヴィンセント手を止め、弟をにらむ。)
ヴィンセント:金星の上に立たないで。
17歳になったヴィンセント。彼女ができる!
ふたりは車の前座席でいい雰囲気。周囲には巨大な衛星通信用のアンテナ。
このあと、若い女性とメイクラブシーン。メイクラブの詳細は省略します…原文からご覧ください。(♡)
(以下、詳細を省略した部分は[]書きにしています。)
INT/EXT. CAR / SATELLITE DISH. DUSK.(室内/外,車/衛星通信アンテナ,夕方)
ヴィンセントはハンサムな17歳。めがねは隠してある。巨大な衛星通信用アンテナが見える位置で、おんぼろ車の前座席にいるヴィンセントと若い女性。ふたりはお互いの首に手を回している。
ジェローム(モノローグ):僕はそれなりにモテた。長期的展望には向かないことがあとになってわかるまでは。はじめに僕が何者か知らなかったとしても、それは容易にわかることだった。僕から情報を引き出すことにはなんの問題もなかったのだから。
[若い女性、ヴィンセントから遺伝サンプルをゲットし、口移しで検体容器に封じ込める。]
ジェローム(モノローグ):彼女らを責めることはできない。知る必要があるのだ。未来の夫候補にローンの支払い能力があるかどうか、生命保険に加入できるか否か、まともな仕事に就けるかどうかを。
ガタカ社会のデートスポットは巨大な衛星通信用アンテナが見える場所。近未来ディストピアでは科学技術の粋を集めた場所がロマンチックだとされているのかもしれません。科学と詩が一体になっている様子です。(ちなみに脚本では、後のシーンでユージーンとも同じ場所に行き、星を見ます…どういうことなんでしょう? ドキドキですね!)。
INT. HOME. DAY.(室内,自宅,昼)
質素な自宅のリビング。暗い色の髪で、めがねをかけた17歳のヴィンセントが両親の向かいに座っている。意気消沈した表情。膝には「宇宙でのキャリア」の本。
母(諭す口調):ヴィンセント、現実をみましょう。あなたの心臓じゃ…
ヴィンセント:それでもいいんだ。リスクは承知の上だよ。
母:問題になるのはあなた自身だけじゃないのよ。新しいペースメーカーなら用意してあげられるかもしれないわ。それも完璧とはいかないけれど……
父(いらいらした表情):いい加減わかってくれよ、ヴィンセント。お前が宇宙船の中に行けるとしたら、それは清掃員としてだ!
ヴィンセント、父を不信の目でみつめる。近くで宿題をしていた15歳のアントンが顔を上げる。
映画でもおなじみの面接場面。父の話が正しかったことを身をもって知るヴィンセントだった。
遺伝子による就職差別は”genoism”と呼ばれ違法だが、法をまじめに受け取る者はいない。遺伝情報の提供を拒否しようとも、相手側は、ドアノブや握手、封筒についた唾などから情報を得てしまう。
ヴィンセントは、面接官に差し出されたプラスチックコップを使うことなくもとの位置に戻し、その場を後にする。
EXT. BEACH. DAY.(外,ビーチ,昼)
ヴィンセントは以前デートした若い女性がアントンといるのを見つける。
ジェローム(モノローグ):アントンのただ乗りを責めたりはしない。宝くじに当たった誰かを責めることはないように。
若い女性、急いで立ち去る。
その後、ビーチで面と向かい合う兄弟。例のゲームをもう一度やることにする。
ジェローム(モノローグ):弟と一緒に泳いだのはそれが最後だった。いつものように、沖へどんどん向かっていく。地平線に向かって水をかくごとに、それだけ岸へ戻るために水をかく回数が増すのだ。いつものように、僕らは無言で競争を続けた。
ヴィンセントはアントンが遅れていることに気づく。腕の動きがおぼつかない。やがて、弟は海に沈み始める。ヴィンセントはアントンを抱えて岸まで泳いで戻る。二人はなんとか浅瀬にたどり着き、肩で息をする。その場にかけつける、アントニオとマリア。父は激怒。
アントニオ:ヴィンセント、馬鹿なことをしたな! くだらない競争のせいでアントンを死なせるところだったんだぞ! お前を助けるためにアントンは死にかけたんだぞ! いつになったらわかるんだ、このわからずやが! 弟には勝てないんだ、なんでそれがわからない!
マリアがアントニオを脇に連れていく。アントンとヴィンセントはお互いを見つめる。
アントン:どうして何も言わなかったの?
ヴィンセント:君の方こそどうして?(訳知りに父の方を見る)いいさ。そうなるのがみんなの望みなんだ。
ジェローム(モノローグ):これで両親の考えはすべてわかった。期待されているのは弟の方で、僕には何も期待されていない。あの日、僕が死んでいたらみんなは悩みの種から解放されたことだろう。だから僕はその望みをかなえてあげることにした。
INT. HOME. NIGHT.(室内,自宅,夜)
薄闇のリビングルーム。暖炉の前で家族写真を見つめるアントン。ヴィンセントの顔が破り取られている。ヴィンセントがスーツケース片手に正面玄関から出ていくのを隠れて見つめるアントン。
アントンは飛び出て、ヴィンセントの名前を叫ぼうとしたが声にならなかった。
今回はここまでです!
このあとの、映画からカットされたヴィンセントとユージーンの日常にまつわるエピソードが私は大好きなので、続きを書くのがとても楽しみです♪
時間を見つけて少しずつ書いていきたいと思います。
お読みいただきありがとうございました♪