海底摸猫

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長年観たかった思い入れ深い作品『バベットの晩餐会』感想

長年気になっていた映画がありまして、『バベットの晩餐会』という1987年のデンマーク映画は、私にとって少し思い入れが深い作品で、いつか観ようと思って大事にとっておいた作品です。

この作品名は高校生の時、美術の先生(定年間近の先生でした)から教えてもらいました。映画がとても好きな先生で…選択科目のイタリア語の授業中(生徒が2人だけ)、雑談で国内外の映画のあれこれについて語りだすと、チャイムが鳴ろうとも何があろうとも、言い終えるまでは気が済まなくなるという先生でした。先生のイタリア語の授業も勿論大好きだったんですけれど、そんな先生の映画にまつわる小話をあわせて聞くのも毎回楽しみで仕方なかったんですよね。悲しいことに、授業は半年しか受けられなかったのですが、イタリア語の基礎知識と同時にかなり濃密な映画知識の洗礼も受けられた貴重な経験になりました。先生に教えてもらった作品は必ずその週のうちに観るようにしていたので、白黒映画から90年代の有名作に至るまで、おかげで随分と多岐にわたる映画作品を高校生のうちに知ることができました。現在に至るまでの私の映画遍歴は随分と先生の影響を受けた旅路となりましたし、私を映画好きにしてくれたのは先生との巡り合わせのおかげであるなと今ではつくづくそう思うようになり、心から感謝するようになりました。

ある時先生に、先生が一番感動した映画を教えてほしいと頼み込んで、押し問答の末にようやく教えてもらったのがこの作品だったんですよね。「キミにはまだ早いかなぁ~」との一言付きでした。笑

全てを真に受ける高校生だったので、その言葉を信じて今日まで生きてきましたが、先週ふと、「ちょっともしかしてもうそろそろいいかな?」と頭によぎり、20年の準備期間を経て観ることにしたんです。

デンマークの寒村で慎ましやかに信仰生活を送る姉妹の生活の様子から映画は始まり、謙虚に清貧生活を送る彼女たちの身にささやかながらも起こった夢と希望、失望から諦念にまつわるエピソードまで、途中までふむふむと観ていたのですが、彼女たちが老年を迎えたころにバベットという一人の聡明な女性が姉妹の家を訪れ、彼女らの生活に様々な変化をもたらし、やがて彼女らの生活やそれらの思い出を全て一身に受け止めたバベットが、姉妹や村の信者たちのために晩餐会の用意に着手する場面のあたりから、もう涙が止まらなくなってしまいました。決まりきった生活を過ごす内に記憶の隅に取り残され、忘れ去られていた、希望を見出すという力や美しいものをただ純粋に美しいと感じ取れる心を、バベットは料理を通じてみんなに思い出させることができたのだなと。こんなに幸せな映画がこの世にはあったのかと。登場人物たちの人生の悲喜こもごもが自分自身にこれまで起こってきたこととの経験とがないまぜになったように重なって感じることができ、自然と涙が流れていました。

たしかに先生の言う通り、この作品は、人生経験の浅い高校生(だった私)が観ても、それほどの深度で理解することはできなかったのかもしれません。今の私であったとしても理解が十分であるか、それさえもわかりません。思うに、映画をはじめとする物語に触れようとするとき、受け取り手が最良のものを受け取るのに適した固有のタイミングがどんな作品にもあるのかもしれません。そしてそれは歳を重ねるごとに適切なタイミングが更新されていくのかもしれません。きっと、37歳の私と60歳近くの私とでは同じ作品に対して異なった感想を持つことだろうと思います。これから先の人生でそのタイミングを発見していくことが私には楽しみであるし、歳を重ねた先に自分の心が、映画という時間の中に閉じ込められた一つの世界を感じ取れるようになれるということを教えてもらえたことには、ただ感謝しかありません。

 

横顔がハンサムな女性

バベットという女性は、戦争で家族を失い、フランスから姉妹とゆかりのある音楽家からのつてを頼って村に逃れてきた女性で、横顔がとてもハンサムな女性なんですよね。その秘密は映画の最後の方で明かされるわけですけれど、しっかりした意志と芯の強さを感じさせる横顔が本当に美しい人だなと思いました。そして賢くて有能で時に抜け目のないバベットのことを村の人たちは本当に大好きなんだな、というのがヒシヒシと伝わってきました。(好きすぎるあまり、バベットを遣わしたことを神様に感謝する人まで現れて。笑)。歳を重ねて、横顔に意志の強さと厳しさとを兼ね備えたハンサムな女性に私もなってみたいな…という祈りが心に生じたことを念のためここに記しておきます。笑

 

Babette's Feast (1987)

 

ウミガメのスープ、うずらの石棺風パイ

晩餐会のためにバベットがフランスから取り寄せたウミガメやうずら、牛の頭などのあまりにも見慣れない食材に魔女の晩餐会が始まると思い込んでうなされる場面には何度でもクスッときてしまいます。

料理のことは話さないと事前に決め込んでいる村民たちですが、いざ晩餐会が始まってみると集まった全員がバベットの料理に心のなかでは舌鼓。料理の説明を次々に述べる将軍との対比に思わず笑ってしまいました。晩餐会のメニューは、どれも極上の食材を使った食べると寿命が100年は延びてしまいそうな味のしそうな料理の数々でした。本当においそうで画面越しにも至福の味が伝わってきました~。

あのうずらの石棺風パイ、一体どんな味がするのでしょう? 心を込めて作る料理は、それを食べる人だけでなく作る人をも幸せにするんですよね、キッチンに立つバベットの真剣な表情からそんなことを読み取りました。

 

 

愛と信心にあふれた全てのカットが絵画のように美しくて…観ているだけで心が洗われるような映画時間でした。(衣装にはカール・ラガーフェルドも関わっていたのだとか。)

私の恩師である美術の先生が一番感動したという作品にこの作品を挙げた理由が少しだけわかったような気がします。

また、映画が大好きになりました。

 

 

原題:Babettes gæstebud(英:Babette's Feast)

邦題:バベットの晩餐会

1987年 デンマーク映画